ネットで養子縁組

子どもの特別養子縁組を希望する生みの親と育ての親(養親<ようしん>)をインターネット上で専用のシステムを使ってマッチングさせる会員制サービスを、大阪市NPO法人が今月から始めた。こうしたあっせんの取り組みは国内初という。NPO側は手軽さや費用負担の軽減をアピールするが、専門家からは「慎重さに欠ける」と懸念の声も出ている。

 サービスを始めたのは、NPO法人「全国おやこ福祉支援センター」。2014年3月にホームページ「インターネット赤ちゃんポスト」を開設し、特別養子縁組の相談やあっせんをしている。親が育てられない子を受け入れる「赤ちゃんポストこうのとりのゆりかご)」を運営する慈恵病院(熊本市)とは関係がない。

 会員登録は身分証のコピーを提出すれば誰でも可能。生みの親が養親候補のプロフィルを見て子を託したい相手を選べるのが特徴で「かけがえのない<命>と愛情あふれる里親とを『手軽に』結びつける」とうたっている。近くスマートフォンでも使えるようにするという。

 阪口源太代表理事によると、養親希望者は、写真▽自己紹介文▽年齢▽職業▽年収▽資産▽居住地--などを開示。NPOは所得水準や自治体の里親研修を受けたかなどに応じて点数を付け、得点の高い順に並べ紹介する。

 生みの親は登録前にNPOが面談し、育てられない理由などを確認。妊婦も登録できる。子どもを育ててほしい相手は、生みの親が一覧から選び、スタッフが養親希望の家庭を1回訪問して適性を判断。1週間をめどに正式な仲介の可否を決める。仲介後も双方の相談には応じる。

 利用は当面無料。マッチングの段階でNPOが間に入る従来よりコストが抑えられ、養親側にかかる事務経費はこれまでの一律64万円から50万円程度に減らせるとしている。阪口代表理事は「特別養子縁組の数を増やして一人でも多くの子どもを救うには、ネットを使って効率化することが必要」と話す。

 これに対し、宮島清・日本社会事業大准教授は「生みの親の意見が養親選びに反映されることは重要」としながらも「事業者が面接も家庭訪問もしていない夫婦を養親希望者として紹介することなどあってはならない。出産前に『養子に出すこと』を決めてしまって後戻りしにくくなったり、病院に行かず密室で出産したりする行為を増やしてしまう可能性もある」と指摘する。

 厚生労働省家庭福祉課は「このシステムの情報は把握していないが、生みの親は本当に育てられないのか、養親に適性があるのかは、慎重に見極める必要がある」としている。

 特別養子縁組のあっせんには、生みの親と育ての親の事情を考慮し、子どもの将来を見通す専門性が求められるが、事業者には自治体への届け出義務があるだけで、手法などの指針はない。
 NPO法人「全国おやこ福祉支援センター」のマッチングのシステムについて、あっせんに長く携わる助産師の女性は「子どもを手放す親が経済的に困窮していたら年収が高い人を選ぶかもしれないが、それがいい夫婦とは限らない」と疑問を投げ掛ける。NPOは昨年、中絶を考える女性に向け「『産んでくれたら最大200万円相当の援助』があります」とホームページで呼び掛け、大阪市から「人身売買のような誤解を招く恐れがある」と行政指導を受けた。
 また、届け出をしていない別の団体も最近、ホームページに養親希望者のプロフィルを掲載し、生みの親からの仲介希望を受けるサービスを展開している。
 与党内では民間あっせん団体を都道府県の許可制にする動きがある。早ければ今国会にも議員立法で提出される。NPOの阪口代表理事は「国が基準を定めれば従う」と話しており、子どもの一生を決めるあっせんの早急なルール作りが求められる。